漢方医学の基礎知識(2)漢方の種類と陰陽五行

言い伝えによると中国伝統の医学の歴史は、薬草が使われ始めた5000年以上前だと言われています。日本では、植物・動物・鉱物などを原料とする生薬を用いて治療する医学は中国から伝来したものを基本にし、日本人の体質に合わせて発展し、長い歴史の中で日本人向けの漢方医学となりました(古方派)。中国伝統の医学のそれとはかなり違っています。

中国漢方の中心をなすのは、古方派で用いられている「気」の理論のほかに、「木火土金水」の五行思想と「陰陽」の概念を掛け合わせた「陰陽五行論」です。日本で独自に発展を遂げた漢方医学は観念的である陰陽五行論を排除し、実利的な「気・血・水」理論を用いて発達しました。

 

漢方医学の種類/流派

中国から日本に伝来した医学は日本で独自の発展を遂げて現在の「東洋医学」が確立されました。

 

東洋医学とは

・漢方薬を用いて治療する「漢方医学」と「針灸医学」などをまとめて東洋医学と呼びます。

 

漢方医学の流派

現在日本で広まっている漢方医学は中国から伝来した伝統的な古方派を基にしています。

中国漢方で用いられている「陰陽」や「五行」は観念的であるとして排除しています。

長い歴史の中で独自に発展し、日本人向けの漢方医学となりました。

→『傷寒論』(伝統的東洋医学の古典)を中心とした「気・血・水」「虚実」などの理論と植物などの「生薬」を用いた実用的な医術

 

 

中国漢方について

・陰陽五行説

中国における医学の中心は、古方派で用いられている「気」の理論のほかに「木火土金水」の五行と「陰陽」思想です。

陰陽五行説

 

中国医術の思想と習慣の歴史は何千年も前にさかのぼります。医者は患者の病気や症状を見るのではなく、患者全体のバランスの崩れや歪みを見ます。

陰陽思想

 

陰陽・五行ともに古代中国の基本的な世界観となった考え方です。

 

 

・陰陽とは?

陰陽説は、天地万物すべてが陰と陽のエレメンツから成るという思想です。2つの要素は万物の生成と流転を表し、絶えず変化しています。

→易の基本原理にもなっています

 

漢方では、相対する2つの気である「陰と陽」が病気の陰の状態陽の状態を表しています。例えば、急性の肺炎で初期は熱や汗が出ます。これが病気の陽の状態です。

病気が進行すると徐々に症状が激しくなり、体がぐったりして消化器の症状(下痢など)が出ます。これが陰の状態です。

病気は陽の状態から陰の状態へ進行すると考えられています。陽の状態のときは瀉剤(冷やす薬、抑える薬)、陰の状態のときは補剤(温める薬、持ち上げる薬)を処方します。

 

 

・五行とは?

五行説は、万物は「木火土金水」という5つのエレメントから成るという思想です。この5つの要素が互いの性質を助け合ったり、打ち消し合ったりして万物が変化していくという考え方です。

 

中国の五行説は万物を構成する基本的要素であり、アリストテレスの四元素説(火・空気・水・土)と比較されることが多いです。

アリストテレスの四元素説はその後、ヒポクラテスの四体液説と関連づけられ医学・医薬において重要な理論となりました。

西洋医術は四体液説を基に、医学の父であるヒポクラテスが現代の医学の基礎を築きました。

→それまでは、病気は超自然的な力(迷信、呪術など)の仕業だと考えられていました。

 

四体液説は四元素の影響を受け、人間は「血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液」から構成されているという理論であり、この体液は健康状態を表す指標にもなっています。この四つの体液のバランスがとれていると健康な状態です。

→中国の陰陽五行や西洋の四元素は医学・医薬のみならず、占いや占星術などにも発展しました。

 

 

・生薬―陰気・陽気・中気の分類

漢方で用いられる生薬は植物、動物、鉱物です。

中国医術では何百種類もの植物が使われています。

薬を乾燥させたり、お茶、粉末、錠剤、ペースト状などにして処方します。

諸成分はそれぞれのもつエネルギー(陰気・陽気・中気)によって分類されます。

 

陰気は冷却、鎮静作用のあるもの(アワビの貝殻など)

陽気は温め、活性化するもの(ヒトの胎盤など)

中気のものはインド麻の種などがあります。

 

中国漢方では感染から体を守るため、体を動かすエネルギ-である「気」と「陰陽」の思想を取り入れています。

 

 

中国漢方以外の医学

薬と治療の歴史

紀元前1600年頃のエジプト古代文明では植物、動物、鉱物の効用がパピルスに印されています。

旧約聖書にもマンダラゲ、シナモン、乳香、アギなどの記載があります。

世界には伝統的な中国漢方のほか、さまざまな医学や医術があり独自に発展を遂げてきました。

 

 

・世界三大伝統医学

①中国医学(中国漢方を参照)

②インド医学

インド・アーユルベーダは、医学のみならず宇宙観、自然観をも含む壮大な哲学です。健康は、人間と環境とのバランスだという考え方です。アーユルベーダの理論である「地、風、火、水、天」という5大元素論は古代ギリシャ他と関連があります。

また、漢方の「気」にあたる「プラーナ」という概念もあります。アーユルベーダの療法では主に植物が処方されますが、その他にも野菜や蜂蜜、鉱物が使われます。

 

③ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)

現在もイスラム文化圏で行われている医術で、古代ギリシャを起源としています。

→四体液説

食材や生薬にも「熱・冷・湿・乾」4つの基本性質がある。

ギリシャ医学の伝統を引き継いだのがイスラム帝国で、医学に傾倒していたペルシャの哲学者イブン・シーナが医学の百科事典『医学典範』を著し、これが西洋に伝えられました。

 

 

・その他の医術

ネイティブアメリカンの伝統

新大陸の原住民であったアメリカのインディアンは植物を治療に用いていました。(ハーブ療法)病気の症状と見た目が似ている植物を治療に用い、疲れと清潔を保つため蒸し風呂(発汗療法)に入っていました。

こういった習慣は精神的なケアに役立ち、その他にも外科手術や傷の治療などの知識を持ち合わせていました。これらの知識は夢を通して得たとも言われています。(呪術を行う人、シャーマン)

 

ハーブ療法

薬草を使った治療は古代から行われていましたが、ハーバリストが誕生したのは16世紀のイギリスで植物に関する多くの本が出版されました。現在のハーブ療法はホリスティックに病気をとらえ(身体、心、気、霊性)、植物独自の使い方を組み合わせています。治療は症状を和らげたり、自然治癒力を高めたりするために行われています。

植物を乾燥させてお茶として飲むほかにも、チンキ、エキス、トローチ、錠剤などにして服用します。St.John’s wort(セントジョンズワート)は薬効が研究でみとめられています。(軽~中等度の抗鬱作用)

 

同種療法

19世紀にドイツ人のサミュエル・ハーンマンによって発見された治療法。これは患者の病気や症状を起こしうる物質と同じものを少量注入し、その病気や症状を治療します。治療には植物、動物、鉱物が用いられ、体の自己防衛機能を刺激して病気への抵抗力をつけます。

中には毒性のあるトリカブトなども同種療法では安全に使用されています。

→通常の希釈は600~3000倍

 

 

まとめ

現在日本で広まっている漢方医学は中国から伝来した伝統的な古方派を基にしていますが、中国漢方で用いられている「陰陽」や「五行」は観念的であるため用いられていません。長い歴史の中で独自に発展し、日本人向けの漢方医学となりました。中国漢方の陰陽五行は中国伝統医学の基本的な考え方です。現在主流の現代医学も歴史を遡れば四元素・四体液説が基になっています。「病は気から」という言葉があるように、目には見えないエネルギーが私たちの体の中を巡って健康状態を左右しているのだと思います。

 

 

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